interview

「私は私のままでいい」と気づいたら 自分を表現するのが楽しくなりました 【禅で変わった私の暮らし】

第三回 佐藤美樹さん

小豆島へ移住し、現代の妖怪を展示するアートミュージアム「妖怪美術館」で働き始めた佐藤美樹さん。海外からも人気を博して順調な運営のさなか、コロナ対策として4か月の休館を余儀なくされることに。
「職場の同僚や取引先と顔を合わせて対話することが減り、うまく自分の気持ちを伝えられないことにストレスを感じていました」
コミュニケーションの壁を突破するべく始めた禅で、混乱していた思考に落ち着きを取り戻し、やがて見える世界が変わり始めたといいます。

瞑想音楽でネガティブな思考が止まり
心の中が静かになっていった

――佐藤さんの今の暮らしと、禅に出会ったきっかけを教えてください。

香川県小豆島の「妖怪美術館」で働いており、運営業務・SNSでの情報発信が主な仕事です。妖怪美術館は海外からの観光客も多く、運営は順調でしたが、新型コロナウイルスの影響で昨年3月から4か月間休館していました。7月から再開が決まりましたが、コロナ禍での営業をどうするか不安とプレッシャーを感じていました。

再オープンへ向けてミーティングを重ねましたが、コロナ対策のため対面で話す機会が減り、メールやオンラインがメインに。もともとコミュニケーションが得意ではないので、自分の気持ちを思うように表現できず、もどかしくて。うまく伝えられない自分自身への怒りや焦りの感情も湧いてきて、ネガティブな思考が止まりませんでした。

そんな折、「InTrip」に出会い「禅をやるなら今だ!」と思いついて。

(↑)香川県小豆郡 妖怪美術館にて

――悩みを抱えた状態で禅アプリを思いつき、何から始めてみましたか?

とりあえず瞑想音楽を聴いてみました。家で仕事をしながら、歌詞が無いゆったりとした曲を聴いていたら、堂々巡りしていたネガティブな思考が止まりました。頭の中がうるさかったのが静かになって「あれ?なんで?」と不思議でしたが、そのまま音楽を聞きながら仕事をしていたら、考えがまとまり気持ちが落ち着いていきました。

好きな音楽を聴いて気分が上がることはあっても、心の中が静かになった経験はなくて。ざわざわする思考が止まり、感情も落ち着いて冷静になれました。理屈はよくわからないけど、禅ってすごい!と思いました。

――音楽でネガティブな思考が止まる経験が、禅との出会い。そこで不思議な効果を感じたのですね。

はい、音楽で効果を感じた翌日には「禅をはじめる七日間」というプログラムを始めました。当時気持ちが落ち着かず不安感があったので、まずは一度やってみようと。

ナビゲーターの伊藤東凌さんの独特な語り口が印象的で、イヤホンで聞くと、脳に直接語りかけられるようでした。
「頭の中を空っぽにしましょう」と言われ、やってみるけど雑念が湧いてうまくできない。「空っぽは無理…」と思っていると「空っぽにできませんね」という声。タイミングが良すぎて神の声かと思いました(笑)

七日間のプログラムでは「呼吸に気づく」「音に気づく」「香りに気づく」など、普段気にかけない身近なことへ意識を向ける練習をしました。寝る前に10分間のプログラムを続けたら“思考と感情を眺める”という感覚がつかめました。

感情に支配されなくなると
苦手だったSNSが楽しめるように

――思考と感情を眺めるとは、具体的にどうするのでしょうか?

それまでは、目の前のことに反射的に反応していました。売り言葉に買い言葉で、すぐ感情的になり、そこから抜けられずイライラや悲しみがループしていました。それが「InTrip」で禅を続けていくなかで、人の言動に感情的になることが減っていました。

感情の波に気づいたら「イライラしている」「すごく傷ついている」と客観的に捉えます。それから「解決するためにどうする?」と思考する。以前は「悲しい、辛い」とグルグル考え続けていたのが、「どうしてそう思ったの?」「私は何を伝えたい?」と一歩引いて考えられるように。

振り返ると、禅を知るまではほとんど感情で動いていました。今では別の階層から世界を眺めている気がします。

――感情に支配されず、自分でコントロールできるようになったことで、悩んでいた仕事や生活にどんな変化がありましたか?

家族だと遠慮が無くなって、感情をそのままぶつけてしまうこともありました。今は、家族といえど別の人間であり、100%理解しあうことはできないと俯瞰して捉えるようになり、家庭内での不毛なやりとりは無くなりました。夫とは職場が同じで一日中顔を合わせますが、ケンカもほとんどなく平和に過ごしています。

仕事で一番変化を実感しているのは、SNSの発信です。仕事で担当するまでSNSの経験が無く、苦手意識がありましたが、今では投稿を楽しめるようになりました。

――苦手だったSNSを楽しめるように!どのように気持ちが変化したのでしょう。

SNSでは、それぞれの価値観、正義が渦巻いています。誹謗中傷や、投稿が炎上しているのを見ることも多く、独特の世界感に戸惑ってばかりでした。妖怪美術館として発信するときもどこかで怖さがあり、炎上しないようにという視点になってしまい、一方的なお知らせしかできませんでした。

それが、禅の「眺めてみる、客観的に捉える」という視点でSNSの世界を見ると、受け止め方が変わりました。きつい言葉の発信も「この発言がこの人の全てではない」と、言葉の奥にも目を向けるようになり、反射的に嫌だ、怖いとはならない。
SNS上の短い言葉だけで真意はわからない。だから、100%受け止めて気にしても仕方ない。楽しさや繋がりというポジティブな面に目を向けると、もっと気楽に自分を表現しても大丈夫だと思えて、気持ちが軽くなりました。

それからは、SNSでのコミュニケーションを楽しめるように。こちらから語りかけて意見募集をしたり、コメントのやりとりをするうちに、700人程だったツイッターのフォロワーも9000人に増えていました。今は海外からの観光客は途絶えていますが、代わりに国内からたくさんのお客様に来場いただき、運営も順調です。

皆がありのままでいられる
寛容な社会を作っていきたい

――楽しみながら仕事の成果もしっかり上げているんですね。お忙しそうですが、禅は続けられていますか?

禅は「雑念が湧かないよう真剣に取り組む難しいもの」だと思っていましたが、マイペースでやりたいときにできるし、電車の中、お風呂、食事中、散歩中など、何かをしながらイメージや瞑想をするプログラムも多いので、気負わず続けています。

それに、うまくできなくても「それで大丈夫」と見守ってくれます。アプリの呼吸のワークで「吐く息を長く続けて、吐き切ってください」と言われてやってみたら、息が止まってしまい続かない。「これ以上は無理、まだ続けるの?」と思っていると「吐ききれないですね、できなくて大丈夫」という声。雑念が湧いていいし、呼吸法もうまくできなくていい。今のままの私で気楽にやればいいと思っています。

――禅をすることで自分を変えるというより、ありのままを受け入れられるようになっていったのですね。

実は、時間をとって瞑想や坐禅をすることが無いので、禅をしている意識はほぼありません。禅というより、心理学やコミュニケーションの手法を学んでいる感覚です。

ありのままを受け入れられるようになったのは、禅の効果です。分かり合えない人もいるけれど、対立する必要はない。自分らしく表現して、気が合う人との繋がりに目を向けて、大切にしてきたいと思っています。今は人からどう思われるかより、自分が楽しむのが一番と感じます。

SNSでは、趣味の合う人と繋がりたいと思い、個人アカウントも作りました。自分の好きなことを自由に発信するのはすごく楽しいです。好きな漫画のことをツイートしたら、作家さん本人がリツイートしてくれたときは本当にうれしかった!

(↑)妖怪美術館にいる『ドデカ妖怪』

――自分を表現することへの恐怖感はすっかり手放したようですね。

たとえば、私は歴史や文化に興味があるので、石碑や古墳を見つけるとワクワクするんです。お花見に行っても桜の後ろにある古墳の写真ばかり撮っているほどで。それで、以前は花より古墳が好きなんてちょっと変かなと思うこともあったのですが、今はそれでいいと思えます。広い世界のどこかには、私と同じように花より古墳の人がいるかもしれないし、SNSで発信することで出会えるかもしれない。多くの人に共感されなくても、私が好きならそれでよいかなと。

共感されなくても、どんな自分も受け止めて、認める。妖怪美術館では、「目に見えない自分の暗い部分、“内なる妖怪”を見つめてみましょう」とガイドしています。妖怪美術館と禅には、通じるものを感じます。

――最後に将来の目標について聞くと、「今は毎日充実していて、目の前の仕事に集中しています。すぐには思いつきませんが…多様性を受け入れる社会を作ること。妖怪は多種多様、私たち人間も互いに認め合う寛容な社会を作っていきたいです」。

まずは自分を認め、それから相手を認めて受け入れる。佐藤さんが日々実践している行いから、寛容な社会は始まっていくのでしょう。

(聞き手 ライター・野村佳未)

佐藤美樹さん
神奈川県出身。東京で出版メディア企業の広報・IRを経て小豆島へ。小豆島・迷路のまちアートプロジェクトMeiPAM 運営管理・SNS担当。妖怪美術館、naoki onogawa museum、島メシ家を運営している。

妖怪美術館
https://yokaimuseum.on-the-trip.com/
https://linktr.ee/yokaimuseum

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